フェスティバルの光と闇、そして炎【前編】
魂を揺さぶるスペインの火祭り
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毎年、夏至の時期に行われるのが、アリカンテ名物「サン・ファンの火祭り(Las hogueras de San Juan)」。
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似たような火祭りはけっこう色々なところでやってるみたいなんだけど、奇祭として国際的にも有名なのは、やっぱりこのアリカンテで開催されるものなんだってさ。
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なんで有名なのかっていうと、そのクレイジーさ。
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まずね、この時期になると、風刺人形が何百体も市内に飾られるんだ。
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大小さまざまなんだけど、大きい物なら30メートル近くあって、かなりの迫力。
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これはチーム対抗コンテストになってて、何か月もかけて作られる、メッセージ性の高い芸術作品なのね。
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製作費は、大きなものは一体当たり10万ユーロ(約1850万円)くらいかかってるみたい。
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その中で優勝作品が1体選ばれるんだけど、なんと
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その1体以外は、最終日に全部燃やしちまえ!!
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というのが、このお祭りの趣旨なのよ。
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なんでそんなことをするのかっていうと、元々土着的に、政治家とか有名人の像を作っては燃やすってことを、1820年代頃からやってたそうなのね。
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火事になるからやめなさいって政府に禁止されたんだけど、全然みんな辞める気ゼロだったみたいで。
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じゃあいっそお祭りにして観光客でも呼ぼうか、ってことになったのが、今から100年くらい前のことだったみたい。
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で、このお祭り、昼間がメインのお祭り期間中と、実際に人形が燃やされる最終日の夜とでは、全く違った光景が繰り広げられるんだ。
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だからこの記事も、前編後編に分けてお届けするね。
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まずは前編、昼の部について書き残しておきます。
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スペインのお祭りって、みんなどんなイメージ?
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トマト祭りなんかが有名だったりするのかな、日本では。
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私は今まで何度かスペインのお祭りを訪れたけど、このアリカンテの火祭りほど、魂を強く揺さぶられたものはなかった。
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きっとこんなことを書くと、「え、どんな特別なことがあるの?」と思うよね。
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でもこのお祭りは、特別なことが起こらないから特別、なんだ。
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お祭りの期間は5日間。
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事前に色々調べてはいたけれど、どの日に何があるかは結局よくわからないままだった。
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SNSには催し物のタイムテーブルが上がってたりするんだけど、発信者によって時間がズレてたりして、心細いことこの上ないんだよね。
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日本のお祭りだったらまず、「いつ、どこでパレードが見られるのか」「イベントをやる場所の正確な住所はどこか」って情報に困ることはないと思う。
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でもその当たり前が全く通用しないことに、とてもビックリしたよ。
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「とりあえず最終日前日の午後2時頃に、市役所の近くで爆竹が鳴らされるみたいだから、行ってみようか…」と、不安げに出かけた私たち。
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途中の路上には、小さな人だかりができていて。
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何だろう?と思う間もなく、人だかりの中心からノリの良い音楽が聞こえてきた。
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そこにいたのは小さなマーチングバンド。
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どうやら街を練り歩きながら、止まっては演奏して人々を躍らせ、止まっては演奏して人々を躍らせ……を、繰り返してるみたい。
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私達夫婦も慌ててビールを買って、路上パーティーにジョイン。
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路上飲酒は普段なら違法だけど、どうやら今日だけは許されてるみたいで、近くのレストランやバルはどこもキンキンに冷えた飲み物を売ってた。
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飛んだり跳ねたりしながら小さな路上フェスを堪能してたら、後ろからまた別の音楽が聞こえてきて。
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振り返ると、酔っ払い達に先導されて、別のバンドが演奏しながら歩いてくるところだった。
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明らかにバンド同士がお互いを意識してて、すれ違う時は大音量でお互いを邪魔してるのが面白い!
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どうやらお祭り期間中はいくつものバンドが市街地を練り歩いていて、そこここで大音量のどんちゃん騒ぎが繰り返されてるみたい。
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ここで私、胸がどきどきしてきちゃって。
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ようやく気づいたんだ。
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自分が、フェスティバルというものを勘違いしていたこと。
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フェスティバルって、プログラムやイベントのことじゃないんだよ。
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その期間のあいだだけ、人々の心に宿る自由。
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それがフェスティバルの核心なんだ。
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この期間、心という心は皆浮足立って、1年に1度の特別な状態になる。
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この開放的なバイブスをまとった人たちが街にあふれている状態こそが、フェスティバル。
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お巡りさんたちは路上飲酒を取り締まらないし、騒音を立てても良いし、道をふさいで踊り狂っても良い。
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だって今週は、年に1度の火祭りなのだから。
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爆竹の時間が近づくと、明らかに人が多くなってきた。
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見ると交差点にはすでにおびただしい数の人々が集まっていて、爆竹が鳴らされるのを今か今かと待っていた。
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期間中に何度も鳴らされる爆竹は、この祭りの華。
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暴力的なまでの量の爆竹に、一気に火をつけるんだよね。
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あまりに大量だから、近所の家の窓が衝撃波で割れてしまったり、辺り一帯が煙に包まれて何も見えなくなったりするほどみたい。
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そんなの見に行って大丈夫なのかって?
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私も心配してたんだけど、全然平気だった。
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だって、
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黒山の人だかりで、全く何が起こっているのか見えやしない笑
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すごい音だけは聞こえる。
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時々、炎のようなものも見える。
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でもそれより何より、何千人という人たちがただこの数分間のために、街の一か所に集まっている熱気の方がすごかった。
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尋常でないエネルギーの渦に、肌がチクチクと反応していた。
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爆竹が終わると、またどこからともなく聞こえてくるマーチングバンドの音。
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人々は自然とバンドに引き寄せられていく。
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ある人たちはバンドの隊列の一部となって、一緒に街はずれへと歩き出していった。
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これ、ハーメルンの笛吹き男みたいだ!
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ドイツの童話「ハーメルンの笛吹き男」のラストで子供たちは、笛を吹いて歩く男の後を、ぞろぞろとついていってたよね。
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それと全く同じ現象が、目の前で起こってた。
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ああそうか、童話や民間伝承に出てきたような現象は、決しておとぎ話の中だけじゃなかったんだなって、気づく。
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歴史ある街並みには、きっとこの手のスピリットがずっとうずくまっていて、フェスティバルになるとそれが、つむじ風のように人々の心の中に潜り込むんだ。
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思いがけず悠久の息吹に触れてしまった私の目に、ある光景が飛び込んできた。
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バンドの後について歩いていた、身なりの良い紳士が、踊るように軽やかに、その隊列から抜け出たんだ。
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そしてそのまま、道端で座り込んでいたホームレスの老婆に微笑みかけて、うやうやしく両腕を差し伸べた。
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そして、家族のように長い抱擁を交わした後、さりげなく頬に口づけたんだ。
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にっこりと笑った紳士はくるりとお辞儀をし、再び隊列へと戻っていった。
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見送る老婆の顔にも、満面の笑みが浮かんでいた。
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むしろそれは「笑み」を超越して、「光」とでも呼ぶべき何かだったと思う。
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アリカンテが光の都と呼ばれる所以を、はじめて理解した瞬間だった。
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魂が震え、私の両目に、勝手に涙がこみ上げてくる。
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言葉にならない感動に全身を撃ち抜かれて、しばらくその場を動くことができなかった。
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後編もUPしました!
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臨場感がすごくて、読んでいるだけでワクワクしました!
読みながら、地元のねぶた祭りを思い出しました。ねぶた祭りも、最後には燃やしちゃいます。祭り期間は、血が騒ぎ心踊る高揚感。津軽弁では「じゃわめぐ」と言います。
共通点を見つけて嬉しくなってしまいました。
でもやっぱり、スペインのお祭りは華やかでにぎやかで、迫力が違いますね!
やっぱり、祭りっていいですね〜
日本も夏祭りのシーズンになってくるので、これからが楽しみです✨✨