フェスティバルの光と闇、そして炎【後編】
興奮した群衆が見守る中、ついに人形に火がくべられる…!
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毎年、夏至の時期に行われるのが、アリカンテ名物「サン・ファンの火祭り(Las hogueras de San Juan)」。
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この奇祭、数日間に渡って飲めや踊れやのパーティーが続いた後、街中に置かれた数百の風刺人形を最後にはその場で燃やしてしまうんだ。
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昼の部は
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に書きました。今回は後編、最終日の夜の様子!
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5日間のフェスティバルの興奮が最高潮になるのが、最終日の深夜。
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古城から打ちあがる花火を合図に、街の至るところでひとつまたひとつと、かがり火がスタートしていくんだ。
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その夜のビーチには、古城に上がる花火を一目見ようと、多くの人々が集まっていた。
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そしてそこにいたほぼ全員が、花火を見届けた後、同じ風刺人形のもとへと向かったんだ。
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すぐに燃やされる人形群の中では、一番大きいものだったから。
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私たちはよく考えもせずにその流れに加わってしまったんだけど、おそらくは街中で一番混雑したエリアにいたんだと思う。
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最初はどこかのんびりとした雰囲気があったものの、何百人、何千人というサイズの群衆が形成されだすと、空気がものものしくなってきた。
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叫び出す者、気を失う者、少しでもよく見えるようにと、変圧器や立体花壇によじ登る者。
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モヤセ モヤセ
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ハヤク モヤシテシマエ
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普段は抑え込まれているのであろう狂気が、夜風に滲みはじめた。
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汗ばんだ肌に、不穏な闇がまとわりつく。
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着火予定時刻が近づくほどに、人々の目は据わっていった。
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視線の先には、多額の予算を投じ、何ヶ月にもわたって丁寧に作られたアート作品。
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それが今、何千もの瞳に込められた攻撃性を、いっしんに引き受けている。
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着火に先立って、花火による演出。
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一斉に人々がスマホを宙に掲げる。
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押し合う。舌打ちする。誰にともなく口汚い言葉を投げつける。
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剥き出しの自己中心性が、狭いスペースを奪い合う。
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そしてついに、作品に火がかけられる。
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木や段ボール素材で作られたそれは、あっという間に燃え盛り、一本の火柱となった。
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漆黒の夜空に放たれる火花。
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人々の目には、官能的とでも言うべき興奮がありありと滲んでいた。
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一呼吸遅れて、熱気が四方をむわりと駆け巡る。
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ちろちろと空を挑発する、炎の赤い舌。
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延焼を防ぐため、消防隊が周囲に放水を開始する。
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さっそくずぶ濡れになった人々が、人波をかき分けて逃げてきた。
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ぬめりと通り過ぎる、誰かの濡れた腕。
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不快感、一体感、焦燥感、背徳感。
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ごちゃまぜの情動で、火から目が離せない。
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十数分後、激しい炎で作品の大部分が焼け落ちるまで、皆がその光景に釘付けだった。
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そしてその後は誰もが一斉に、我先にとその場を後にし始めた。
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そこで本当の恐怖が始まった。
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誘導する者もいない野生の群衆が、一気に十字路に向けて歩きはじめていた。
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十字路はあっという間にボトルネックと化し、人で埋め尽くされた。
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真ん中に向けて、人混みが圧縮されていく。
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私も周りの人々に流され、混沌の中心へと押し流されていった。
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すぐに動けなくなり、四方から圧力がかかりだす。
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暑い。体感温度がみるみる上昇していく。
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それでも群衆は十字路の真ん中へ向かい続ける。
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日本で昔たくさんの死者を出した、花火大会の事故と同じシチュエーションだ。
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今ここで誰かが倒れれば、何百人という人たちが雪崩と化し、大事故となるだろう。
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すると私のすぐ近くで、いきなり誰かが叫んだ。
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「押すなよこの売女!」
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次の瞬間、売女と呼ばれた女が、目を見開いて殴りかかっていった。
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その表情からは、一種のトランス状態が読み取れた。
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周囲にいた数人が引き剥がそうとする。
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信じられないような力で人々を振り切る女。
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私も殴られかけて、たまらず夫に叫んだ。
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「十字路から逃げるしかないよ!反対方向へ!」
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夫が返事をするより早く、私の隣にいた男性が英語で叫ぶ。
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「そんなの出来るわけないじゃないか。
さあ進めよ、もう誰も戻れやしないさ!」
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男もまたトランス状態にあるようだった。
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命の危険を理解し、全身が総毛立つ。
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私は自分が、集団ヒステリーの最中にいることを悟った。
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すると夫が男に、そして群衆に、大きな声で叫び返した。
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「戻れるさ。道は見つける!」
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くるりと踵を返すと、彼は本当に、人々の群れを逆走し始めた。
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時折押し返されたりもしたけれど、私の手を取って、なんとか道を拓いていく。
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すると我に返ったように方向を変える人々も現れて、私たちは何とか数分後、その場の混乱から逃れることができた。
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無事にその場を離れられた後も、体の震えが止まらなかった。
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ほどなくして熱も出た。
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火祭りの夜がこんなに荒々しいものだとは想像していなかった。
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昼間は、あんなに大らかな希望の光に満ちていたのに。
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帰りのトラムのなかでは多くのカップルがいつにも増して情熱的に絡み合っていて、これが祭りの夜であることを嫌でも思い知らされ続けた。
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でも私はずっと黙っていた。
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体の中で、光と闇と炎の三つ巴が、ずっとお互いを喰らいあっていたから。
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祭りの余韻と呼ぶにはあまりに激しすぎる何かを閉じ込めておくために、家に着くまで黙ったままだった。
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私も夫も、ひと言も何も話さなかった。
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後日、撮影した写真を見返していたら、恐ろしいものを発見した。
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かがり火がスタートする直前の自撮りショットに、私達を十字路に留めようとした、あの男が写りこんでいたのだ。
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プライバシー保護のためにAIにイラスト化してもらったものがこれ。
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すでに目がキマッとるやないかい…!
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わたし…昼の部だけにする!!笑
楽しそうなお祭りが事件になり、最後の絵でホラーになりました😨
地元のニュースにはならなかったんでしょうか…。
ご無事でなによりでした!