梅仕事と女の人生
スペインで梅干作りに挑戦したらガチで泣いた話
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いざスペインで新鮮な野菜や珍しい食べ物に囲まれてても、料理が下手すぎてあんまりそれが活かせない私。
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それを歯がゆく思ってるところでね、ひろみ 👾 海辺の発酵研究者さんの、梅仕事ポストを発見したんだ。
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梅干し…?
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梅干し、自分で作るの…?
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それ梅仕事って言うの…?
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梅干し=買うもの、として生きてきた私には、全く馴染みのないコンセプト。
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でもね、スペインに移住してきて、「ご飯といっしょにサクっと食べられる、塩辛い何か」が、無性に欲しくなってきたところだったんだ。
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で、ひろみさんの発酵メディアHakkologyに行って、作り方を見てみた。
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すると瓶で漬けられてる梅干しの写真を見た瞬間、なぜか強烈に
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これ作ってみたい!!
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と、思ったんだよね。
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しかも解説を見たら、意外と簡単そう。
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梅と、塩と、蒸留酒があればできるなんて!
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まさかまさか、スペインでもできる?!
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調べたら、スペインにもなんと梅があって、初夏から夏にかけてよく出回るらしいんだ。
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ひろみさんに相談したら「ネット情報では、アルバリコケって品種で梅干しを作ってる人がスペインにちらほらいるみたいですよ」とのこと。
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以来アルバリコケの旬を今か今かと待ち構えていたら、ついに先週!
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スーパーにアルバリコケ登場!!
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これはもう、作るしかない。
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パックで売ってるスーパーのアルバリコケは買わずに、あえて市場に行って、傷がついてないやつを吟味して買ってみた。
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その帰りに瓶を買って、焼酎はないからウォッカを買って、スペインの粗塩を用意して、はかりも買って。
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いざ、梅仕事!!
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というわけで先日、Hakkologyの解説記事を見ながら、なんとか無事(テスト用にほんのちょっとだけだけど)に梅干しを漬けることができたんだよね。
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下手ッぴだから見事に塩が下に溜まっちゃってるけど、初回だから勘弁して。
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で、その翌日。
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早速梅酢が上がってきてる瓶を見た瞬間、ある情景が脳裏に浮かんだんだ。
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北海道に暮らしていた、子供時代。
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和室の押し入れを開ける母の後ろ姿。
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ちらりと見える大きなガラス瓶。
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液体のなかに沈んだまるい果実…
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そうだ、思い出した。
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亡き母は、梅酒を作っていた。
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と言ってもあれは、たった一度の夏のこと。
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親戚から送られてきた大量の梅で、その年、母は梅酒を作ったのだ。
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私の母は九州から北海道に嫁いできた人で、北海道には何十年も住んだけれど、ついぞ友達の一人も作ることができなかった。
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ありあまる梅と時間の使い道として、梅酒づくりを選んだのだと思う。
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梅酒は見事に完成したけれど、父は下戸だったし、母には作った梅酒を分けてあげる仲の人もいなかった。
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だからその梅酒は母にしか飲まれることがなく、いっこうに減らなかったのだけれど…
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ある日何を思ったのか母は、まだ小学生だった私にそれを舐めさせてみることにしたのだ。
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あの光景は、母が作った梅酒を、ほんの少しだけ試した時の記憶だった。
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「アヤちゃん、お味はどーお?」
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「うん、甘いけど、不思議な感じがする」
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「お酒だからね」
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「うん…」
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甘ったるい梅酒にちびちびと口をつける私を、母はどんな顔で眺めていたんだっけ。
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それは思い出せないけれど、母がそれきり二度と梅酒を作らなかったことだけは、鮮明に憶えている。
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いっこうになくならない、大きな瓶いっぱいの梅酒は母に、自分の孤独を思い知らせてしまったのだろう。
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耐えきれずについ我が子に舐めさせてしまうほど、母は孤独で、孤立していた。
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記憶のなかのその姿が、一人の友人もいないスペインに引っ越してきた、今の私自身の姿と重なった。
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梅酢に浸かり始めた私の梅は、母が作っていた梅酒に、とてもよく似ている。
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Hakkologyの写真を見た時に感じた、あの、どうしても作ってみたいという衝動。
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それはきっと、無意識下に隠れていたこの古い記憶が疼いたものだった。
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私は、この梅仕事を通じて、もう会うことの叶わない母に、少しでも近づこうとしていたのだ。
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瓶を眺めていると、あの頃の母の孤独が、まるで自分のことのように理解できた。
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手間ひまかけて作っている時は、母も楽しかったに違いない。
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けれど一生懸命作った梅酒に下戸の父は興味を示さず、他に分け合えそうな相手も思いつかなかった。
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娘に舐めさせてみたところで、小学生に、気の利いた感想など言えるはずもなかった。
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胸が締め付けられた。
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一方で、スペインにいる私も孤独ではあるけれど、母のように孤立しているわけではない。
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今はネットで、世界中の友達と繋がり続けることができる。
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梅干し作りについて質問できる先生もいるし、「天日干しは手伝うよ」と言ってくれる夫もいるし、こうやって梅仕事をポストして「いいね!」をもらうことだってできる。
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ママ、私もね、梅仕事をしてみたよ。
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一人で作ったのよ、ママがしてたみたいに。
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でも安心してね、私、寂しくはないみたい。
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しかもね、なんだか、もう一度ママに会えたような気までするんだ。
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そんな事を考えていると涙が出てきて、私は自分の顔が梅干しになっちゃったんじゃないかって思うくらい、くっしゃくしゃの顔で泣いていた。
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その数分後、薄暗い部屋で梅干しの瓶を抱きかかえるようにして泣きじゃくる中年女性を発見してしまった夫の心中は、察するに余るものがある。
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でもしょうがない。
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しょうがないんだ。
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それが母の人生で、これが私の人生なのだから。
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日本の女はこうやってずっと、自らの生き様を、梅と一緒に瓶に押し込めてきたんだと思った。
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それに時間が魔法をかけて、美味しい何かに変えてきたんだ。
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私たちは、ずっと、そうやって生きてきたんだよ。
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そしてこれからも、そうやって生きていくんだよ。
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アヤさんこんにちは!孤独だけど孤立してないって言葉に心打たれました😢とても良いお話しで自分も海外生活が長いので思うところがありました。ありがとうございます。
梅干しと一緒でじんわりした味わいの話ですね